アメリカの発達心理学者であるエリク・H・エリクソンは、「ライフサイクル」論で、精神発達の過程を8つに分けました。
その中で、1歳6か月から4歳ごろまでを幼児前期、4歳から6歳ごろまでを幼児後期とに分け、幼児前期の課題を「自律性」を養うこと、幼児後期の課題を「積極性」を養うことと掲げています。
今回の記事では、幼児前期と幼児後期の課題を整理のうえ、それぞれの段階で、アドラー心理学の教えを活かした事例についてご紹介したいと思います。
目次
幼児期 前期と後期の発達課題について
では、改めてライフサイクル論を確認しましょう。
ライフサイクル論では、各発達段階において、プラスの力(発達課題)と、ネガティブな力(危機)が対になっていて、その両方の関係性が人としての発達に大きく影響すると教えていました。
それでは、幼児前期と幼児後期のそれぞれの発達課題と危機を見てみましょう。
幼児前期(1歳6か月~4歳ごろまで)の発達課題と危機とは?
幼児前期は、1歳6か月~4歳頃までを指します。
子供は、1歳ごろから簡単な単語を話しはじめ、2歳半ごろから、知っている単語の数が爆発的に増えて言葉を獲得するようになります。
この言葉の急速な発達と同時に、子供は、自分の意志や欲求を他人に伝えられるようになります。
一方で、しつけを通じて社会のルールなどを身につける時期でもあります。
この段階での発達課題は「自律性」、危機は「恥」と言われています。
他人との生活において自分をコントロールできるようになる「自律性」を身につける一方で、できないことを「恥」ととらえて自信をなくしてしまう可能性もあります。
自律性というポジティブな面が、恥というネガティブな面を上回ることが重要とされています。
幼児後期(4歳ごろ~6歳ごろまで)
幼児後期は、4歳ごろ~6歳ごろまでを指します。
この時期の子どもは、幼稚園や保育園に通い始めたりして、集団生活の中で、社会の規範やルールに従い、まわりにあわせて行動できる力を身につけます。
この段階での発達課題は「積極性」で、危機は「罪悪感」と言われます。
あらゆることに挑戦する積極性が高まる。
一方で、自分の行動が上手く行かなければ、周囲から怒られたりするかもしれないという疑念や恐れ(罪悪感)を持つようになります。
幼児前期と同様、罪悪感というネガティブな感情ばかりを抱えることなく、積極的に行動できるようポジティブな気持ちを持てるようにしてあげる必要があります。
幼児期の発達課題の獲得に向けた事例
それでは、幼児前期や幼児後期にある子供が、それぞれの発達課題を獲得できるようにするに、どのようなことに注意すれば良いでしょうか。
ここでアドラー心理学の教えが活きてきます。
では、具体的に事例を見て行きましょう。
幼児前期│トイレトレーニングでの勇気づけ
子供は、3歳前後でトイレトレーニングを始めますね。
子供が、排せつを自分でコントロールできるようになることは、自律性を養う第一歩とも言えます。
一方で、上手く行かなかった、もらしてしまった時は、子供なりに悔しい思いをすると共に恥ずかしい気持ちを感じているものです。
では、この時に、親が感情的になって子供を叱りつけてしまったらどうなるでしょうか?
子供は、既に恥ずかしい気持ちを感じているうえに、さらに親からもしかられることで、もう一度頑張ってみようとするチャレンジする気持ちを奪ってしまうことになります。
こういったときは、怒りたくなる気持ちを押さえて「大丈夫だよ」と勇気づけの言葉をかけてあげましょう。
子供は、前向きな気持ちで、自律性の獲得に向けて頑張ることができるようになります。
幼児後期│社会生活のはじまりと勇気づけ
幼児後期になると多くの子供が幼稚園や保育園に通い始め、親と離れて、他の子どもとの集団生活の時間が多くなります。
その中で、自分から積極的に遊ぶものを見つけたり、友達と遊ぶようになってきます。
でも、積極的に遊ぶものを見つけたり、友達と遊ぶようになる一方で、失敗することもありますよね。
物を壊してしまったり、お友達とケンカをしてしまったり…
そんな時に、子供を頭ごなしに怒ってしまうとどうなるでしょうか?
既に罪悪感を感じているところに、親からの叱責が加わることは、子供の勇気をくじくことに直結し、子供は徐々に積極性を無くしてしまいます。
やってはいけなかったこと、できなかったことを冷静に受け止めて、なぜしてはいけないかを冷静に伝える。
どうしたら良いかと冷静に話しかけて、「次はきっとできるよ」と勇気づけてあげることが大切です。
それにより、子供はチャレンジする積極性を培うことができるのです。
まとめ
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
今回の記事をまとめると、以下の通りとなります。
- 幼児前期の発達課題は「自律性」の獲得で、幼児後期は「積極性」の獲得にある。
- 幼児前期・後期の子供は、「自律性」や「積極性」を発揮して、色々と挑戦するが、まだまだ失敗も多く、子供なりに「恥」や「罪悪感」を感じている。
- 頭ごなしに叱ることは、子供の勇気をくじくことになり「自律性」や「積極性」を奪ってしまう。
- アドラー心理学の教える「勇気づけ」による接し方が、子供の「自律性」や「積極性」を伸ばすことに繋がる。
いろいろなことに興味を持ち始める幼児期の子供のお世話は大変ですが、ぜひ、お子さんが夫々の発達課題の獲得ができるように、勇気づけを行ってみてください。